The episode in production of Carlos Moscardini "Manos"



Carlos Moscardini 『Manos』
2015年9月17日リリースから約3ヶ月が経とうとし、ご購入いただいた方々、ご販売いただいているお店様には深く感謝いたします。いま振り返り、制作の経緯を綴りたいと思います。

2012年に訪れたアルゼンチンへの旅の中で、カルロス・モスカルディーニ氏のライヴ開催と幸運にも重なり、ブエノスアイレスのCafe Viniloへ向いました。当時のニューアルバム『Silencios del Suburbio』発売記念ライヴはアルバムと同じ編成だったため期待して会場へ足を運んだものの予約ですでにソールドアウト。残念ながら入れなかった僕たちは僅かに外に漏れる演奏音や歓声と拍手を聴きながら併設したカフェでアルゼンチンの伝統料理を食し彼のライヴを想像していました。終演は確か23:30頃だったのですが、子供から老夫婦までおめかしをした方々がみな笑顔で興奮して出てきました。それほどにマエストロとしてアルゼンチンでは愛されている音楽家なのだとその時実感しました。そしてモスカルディーニ氏が出てこられるまで待ち、拙い英語で緊張しながら話しつつも別れ際に交わした手のぬくもりが忘れられませんでした。それからというもの、老若男女や子供に愛される音楽家は素晴らしいなぁと考えるようになりました。また、日本でアルゼンチン音楽が広がりつつもタンゴ/フォルクローレの功労者として彼の名があまり日本で知られていないことを感じていましたし、いつか彼の音楽が日本で広く知られることを望んでいました。

その後、カフェを営みながら2014年より hummock label を始動し、第1弾作品として藤本一馬/伊藤志宏 『Wavenir』 をリリースいたしました。と同時に素晴らしい音源をリリースする音楽レーベルが世界に数多くあるなかで、自分たちらしい縁を感じる制作をして購入してくれる方、関わる方々と広いつながりや視野を持つことができればと思うようになりました。そこで思ったのが世代を超えて愛されるモスカルディーニ氏のことですが、彼は自身でSNSをしないため、ブエノスアイレス在住の友人に通訳をお願いし日本企画のアルバム制作へ向けてのコミュニケーションを始めました。彼は数年前に会ったことをよく覚えて下さっていて、「私はタンゴ楽団で1999年に一度日本を訪れました。しかしながら私のオリジナル曲は一度も演奏していなく、いつか日本で演奏できることを夢見ています。」と、なかには熱い言葉もありました。彼のディスコグラフィーのなかで90年代録音の音源で繊細さが際立つ5曲を、この日本企画盤のために再レコーディングしてもらうよう頼み、そして書き下ろし作品も1曲加わった6曲のニューレコーディングの打ち合わせを重ねていきました。その90年代録音のファーストアルバムはモスカルディーニ氏にとって思い入れ深いそうで、不躾な提案だったかなぁと思いつつも「現在再レコーディングすることに意味があります。」と、この機会を喜んでいただけて安堵しました。今作の収録曲はモスカルディーニ氏にとっては穏やか寄りの選曲になりましたが、曲順も、「きっと気に入っていただけるでしょう」と、双方で推敲を重ね落ち着きました。

こうした音源制作と並行してアルバムジャケット制作を始めていました。アートデザイン&ディレクションには、第1弾作品の『Wavenir』を手がけていただいたArgyle Design 宮良当明氏に引き続き依頼し、ある日僕たちは都内で打合せをしていました。様々な案は出ていたものの少し煮詰まったころに偶然友人の切り絵作家YUYA氏が現れたのです。そして今YUYA氏が民藝をモチーフにした制作に熱心なことから、"伝統音楽フォルクローレ"と"民藝"の民衆的でモダンな共通点が思い浮かび、書下ろし切り絵作品をCDジャケットのために制作していただくことになりました。仕上がった作品はモスカルディーニ氏のギターの音をリズミカルに捉えた普遍的な切り絵でした。一方のアルバムタイトルはいろいろ案はありましたが、日本でのイメージとアルゼンチンでの意味合いとのズレがある案もあり、難航しながらも原点に立ち戻り、モスカルディーニ氏の手のぬくもりや手仕事から連想し、『Manos』(マノス=手)と名付けました。そのタイトルとYUYA氏による切り絵、宮良氏によるデザインもモスカルディーニ氏に共感いただけたのも幸いでした。また、ライナーノーツには東京・神楽坂にてブラジル・アルゼンチンからの輸入音楽CD販売/レーベル 大洋レコード伊藤亮介氏に執筆頂けたことも感慨深いです。その後のジャケット印刷は姫路の信頼を寄せる紙/印刷業者に依頼し、温もりあるデザイン性と機能性の高い紙ジャケットを目指し、トムソン型から制作。CD盤は日本国内工場でのプレスを選び、それぞれがここ姫路・的形に納品され自分たちの手作業で組み立てパッケージングし、お届けしています。

最後に、アルゼンチンで製品盤を受け取ったモスカルディーニ氏から「日本盤のリリースおめでとうございます。あとはあなたたちとアルゼンチン、もしくは日本で乾杯するのみです!」とメッセージを受け取りました。まだ Carlos Moscardini 『Manos』お聴きでない日本の方にはぜひ聴いていただきたいですし、いつか日本でモスカルディーニ氏の生演奏を聴いてもらえるよう今後も努めたいと思います。

2015年12月15日